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茶化してるつもりでも,斎藤には通じなかった。
「何も考えないのも一つの手だ。ゆっくり休め。」
にっと笑ってみせる三津の頭にそっと手を乗せた。
それから優しく背中を押して甘味屋へと歩かせた。
三津はこくりと頷いた後,魚尾紋消除 小さく手を振って店の暖簾の奥に吸い込まれていった。「ただいまぁー!おばちゃん大福三つ頂戴っ!」
三津の威勢のいい声が店内に響いた。
店内に居た客達は目を輝かせて熱い視線を注いだ。
看板娘の帰宅に誰もが目尻を下げてお帰りお帰りと声をかけた。
三津もそれに笑顔で応える。
自分を甘やかしてくれる空気が心地いい。
功助とトキは目を丸くして顔を見合わせた。
それから頷き合って,大福を三つ包んだ。
「早よ帰って来ぃ。」
包みをそっと手渡しながらトキが囁いた。「それで十日間何すんの?」
「土方さんには考え方改めて頭冷やせって言われた…。」
トキによって山盛りにされたご飯をつつきながら溜め息をついた。
「そしたら明日は一日店番。暇になったら宗ちゃんと遊んでおいで。」
また話の内容とは関係ない事を言いつけられた。
何で?と首を傾げてトキに答えを求めた。
「今の頭で考えなんか改まるかいな。どうせ悪いようにしか考えん。」
それならいっそ何も考えるな。
答えを出そうとするな。
言葉は少ないけど,トキなりに三津を気遣った。
一人で抱え込まないで欲しい。
「それとあんたの寝言がどれだけ煩いか確認したる。」
それはつまり一緒に寝ようと言うお誘い。
いやトキが言うんだから一緒に寝てやるっていう方が正しいか。
『おばちゃんってちょっと土方さんに似てる…。』
言い方はきついけど本当は優しい。
トキは何食わぬ顔をしていて,功助はにこにこと穏やかに笑う。
つい最近まで当たり前だった日常がここにある。
何とも言えない安心感が,自分の居場所はここだと示してくれている。
「ホンマに煩くても怒らんとってよ?」
今は甘えていいんだと三津の肩の力が抜けた。
「あー…食べ過ぎた…。」
膳を片付けた後の居間に床を延べてごろんと転がった。
膨れたお腹をさすりながらふと思う。
『みんなどうしてるかなぁ…。』
ここ最近は屯所に居たって上の空で,ろくな仕事も出来ない癖にみんなの事が気になる。
今こうして楽をしているのが心苦しい。
「そない難しい顔せんでもええやろ。別嬪が台無しや。」
隣りに功助が横たわった。
三津の髪を梳きながら屯所での暮らしぶりを聞かせてくれと優しく微笑んだ。
三津は頷いて毎日の仕事やたえの事,壬生寺で為三郎や勇之助と遊んだ事を話した。
指を折ながら一つずつ話すうちに,三津の瞼がゆっくり下りてきた。
「寝たん?」
トキが食器を洗って戻って来た時には三津は寝息を立てていた。
「もう寝たわ。こうやって三人で寝るのは初めてやな。」
起こしてしまわないように柔らかく頭を撫でた。
三津を真ん中にしてトキも布団に入った。
「変に気遣ってばっかやから人に甘えるのが下手になるんや,この子は。」
今日は安心して眠ってくれる事を願いながら灯りを消した。「お三津ちゃんお茶一杯!」
「俺はお茶と団子!」
三津は朝からせかせかと店のお手伝い。
三津が帰って来た事はすぐに知れ渡り,三津目当ての客で溢れかえった。
『看板娘と言うのは出鱈目では無かったのだな。』
三津の姿が見える距離。
別の茶屋の長椅子に腰を掛けてお茶をすする斎藤。
「あっちの店はえらい賑わってんなぁ。あんな可愛らしい看板娘がおったら当然かぁ!」
斎藤の耳に届くように,わざとらしく声を張り上げて男が一人横に座った。
「何の用です?山崎さん。」
「そない冷たい言い方せんでも…。
市中を歩き回るのが俺の仕事やからな。
それより暇の間も護衛がつくとはよっぽど大事にされてんねんなぁあのお嬢ちゃん。」
山崎は好奇の目で三津を眺めた。斎藤は溜め息をついて首を横に振る。
でなければならない」
一瞬、俊冬がなにをいっているのか理解できなかった。
「あのなぁ……」
が、すぐに思いいたった。
俊冬は、昔の刑事ドラマの取り調べのシーンのことをいっているのである。
『なぁ、魚尾紋消除 俊冬よ。吐いちまえよ。その方がラクになれるぞ』
そんな感じだろうか。
「あんなのはドラマだけだ。実際、取り調べでカツ丼なんかとるものか」
そういいながら、その当時の刑事ドラマだと、カツ丼を出前するのは岡持ちだったんだろう。だけどいまどき、つまり現代だと「Ub〇r Eats」なんかがするんだろうなって、どうでもいいことをかんがえてしまった。
「だから、そんなことじゃない」
「たま」
「たま先生」
「たま先生、ぽち先生は?」
ちょうど副長もやってきた。島田と相棒、それに市村と田村もいっしょである。
おれの怒鳴り声をきいたのか、そのタイミングで厩から安富と蟻通と伊庭がでてきた。
安富はお馬さんたちと親密なときをすごしていたが、蟻通と伊庭はひと眠りしていたのである。
ナイス、市村と田村。
おれでは尋ねにくいことも、かれらならストレートに尋ねてくれる。
かれらは、悪気などまったくない無垢な天使みたいに、俊冬にまとわりついた。
やはり……。
俊冬も抜かされている。
もちろん背を、である。
俊冬は市村と田村にまとわりつかれ、じゃっかん上目遣いになりつつ「世の無常」に気がついたらしい。
いや……。
これまでごまかし、目を背けていた事実を嫌でも思い知らされたと表現した方がいいかもしれない。
副長似のイケメンの眉間に、本家もびっくりなほどの皺が濃く深く刻まれた。
ふふん。みんなどんどん背を抜かされればいいんだ。そして、現実がどれほど無慈悲で冷たいものかを思い知ればいいんだ。
俊冬の眉間の皺をみつめつつ、心の中で快哉を叫んでしまった。
「たま先生、ぽち先生はどこにいるのですか?」
「ぽち先生の怪我は、大丈夫なのですか?」
かれらの身長が伸びるということは、ごく自然な出来事である。それが、人体の構造である。逆にいうと、成長しない方がおかしいし不自然である。
ゆえに、かれらはちっとも悪くない。
たとえここにいるほとんどの大人に不快感をあたえようが、絶望を知らしめようが、かれらはちっとも悪くない。
ちっとも悪くないのである。
だけどきみたち、竹の子じゃないのだから、そろそろ縦に伸びるのはやめておこうぜ。
そう忠告をしたくなってしまう。
「鉄、銀。悪いけど、ちょっと離れてくれないかな?」
俊冬は、やわらかい笑みとともに二人にお願いをした。
「ええっ?たま先生までそんなことをいうのですか?」
「最近、みんなちかづくなっていうのです」
二人にちかづいて欲しくないのは、おれたちだけではないらしい。
かわいそうだが、そこは男の矜持を護るためということで、素直に受け入れて欲しい。
「ごめん。主計がそうしろっていうからね」
「また主計さん?」
「ひどすぎる」
ちょっ……。
俊冬、またおれをはめるのか?
親父にいいつけてやる。「主計さんのことはどうでもいいです」
「うん。もう諦めているし」
ぐっ……。
どうでもいい?諦めている?
どういうこと?
「ああ、そうだった。ぽちのことか?大丈夫だと思う。まだ、生きているみたいだから」
俊冬は、さらっとしれっとざっくりと答えた。
そのあまりにもテキトーすぎる答えに、この場にいる全員が唖然としている。
いや、俊冬。俊春が生きているのはわかっている。そうじゃない。
おれたちは、かれの具合がどうなのか詳細を知りたいんだ。
それから、かれがいまどこにいてどうしているのかも知りたい。さらにいえば、会いたい。会って看病の一つくらいさせてもらいたい。
「看病なんて必要ないよ」
そのとき、俊冬がこちらのだだもれの心の中のつぶやきに気がついたらしい。
かれがおれをまっすぐ見、断言した。
「唾をつけて「pain, pain, go away!」っていっておいた。だから、眠ったら治る」
「そんな馬鹿な。そんなの、ただの気休めじゃないか。ってか、なんて原始的、いや、野性的なんだ。いくらぽちでも、野生の動物じゃないんだから眠ったら治るってことはないだ……」
そこまでいいかけ、思いなおした。
俊春なら、どんなことだってあるあるだ。
ちなみに、「pain, pain, go away!」は、日本でいうところの「痛いの痛いの飛んでいけー」である。
「たま、いいかげんにせぬか。せめて、俊春の様子ぐらいみさせてくれ。どこにいる?」
みかねた副長が助け舟をだしてくれた。
「あー、本当に大丈夫ですから」
それでもなお、かれは頑なに教えてくれようとしない。
「ねぇ、たま先生。ぽち先生にちょっとだけ会いたいんだ。ダメ、かな?」
「たま先生、ちょっとだけだから。ねっ、いいでしょう?ねぇ、教えてよ。お・ね・が・い」
なんてこった。市村と田村は、さらなる手段を用いてきた。
「わかったわかった。兼定兄さんが教えてくれるのなら、案内してくれるはずだから」
そして、せこいかれは対応を相棒にぶん投げてしまった。
「それでは副長、そろそろ参りましょう」
「ちょっと待て。ぽちのこともそうだが、おれを狙った連中というのはどうなった?」
いつの間にか、副長が俊冬の懐の内に入っていた。
「あなたを狙ったのは三名でした。三名が、ちがう角度から同時に銃を発射したのです。あいつは、二個の